* About Rag *

この項ではインド音楽理論の旋律について解説いたします。

北インド古典音楽にて演奏される様式に沿って話しを進めていきたいと思います。余談になりますが、旋律においてもリズムにおいても実際の演奏概念・理論においてもインド古典音楽というのは、主に南インドで演奏される「カルナータカ音楽」と北インドで演奏される「ヒンドゥスターニ音楽」が存在します。違いは何となく知ってますが詳しくは知りません。このサイトで主に解説しているのは現時点で「ヒンドゥスターニ音楽」であり、「カルナータカ音楽」については機会があれば紹介していきたいと思います(決して逃げている訳ではない)。

Act 1 : Ragについて

日本語だとラーガと発音して良いでしょう。RaagとかRagaとか表記されたりもします。名前を聞いた事ある人も多いでしょう。
北インドでは数千、南インドでは1万以上のラーガがあると言われていますが、それを全部知っている演奏家がいるとは思えないので、本当かどうかはわかりません。自分で創ったりしている演奏家もいます(当然その人しか演奏できない)。

ラーガには当然ながら名前がついています。「Rag Madhuvanti」とか「Rag Kafi」とか呼びますが、ラーガとは曲名では無いという事にご注意下さい。ではラーガとは何の事を指すのか、という説明に入りたいと思います(前置き長すぎ)。

日本での音階はご存知の様に「ドレミファソラシド」ですが、インドでは「Sa Re Ga Ma Pa Dha Ni Sa」と表現されます。当然半音もあります(南インドの音階だと1/4音まであるんです)。Saはドですが、絶対音程ではありません。
今後音階はこちらで表記致しますのでこの表記には慣れておいて下さい。必須です。

では音階の使い方に規則を付けてみましょう。メロディを奏でる場合に、例えばここでは音程が上がって行く時「Sa Ga Ma Pa Ni Sa 」しか使ってはいけません。(Saから始まらなくてはいけないという意味ではありません)。
そして音階が下がっていく時には「Sa Ni Dha Pa Ma# Pa Ga Ma Ga Re Sa」を使う事が出来ます。音程が下降している時には、ここに含まれない音階はもちろん使えません。またメロディーを奏でていて音程が上がる時にRe等を使ってもいけません。ある意味ギターのスケールに似ています。(この例ではMa#の次にPaがありますが、要するに下降時とはいえMa#からはPaにしか行けないという事です)

この中で主役になる音階を決めましょう。役柄不在ではしまりがありません。ここでは「Ga」を抜擢します。ついでに準主役も決めておきます。ここでは「Ni」に頼む事にします。主役や準主役は残りの脇役より当然メロディの中では強調されます。よく出てきます。
この主役をVadiといい準主役をSamvadiと言います。

ついでに行動パターンも決めます。言い換えると旋律のパターンが1つあり、これまたよく出てきます。ここでは「Pa Ma# Pa Ga Ma Ga Re Sa」と定義しましょう。これをPakarと言います。これによってラーガの特徴がより明確になりますね。

この規則が付けられた状態で、演奏者はメロディーを自由に作成する事が出来ます。主役と準主役の使い方も自由です。固定されたメロディを奏でるのもアリですが、面倒くさいので即興で奏でます。実は音階それぞれに意味があり、感情が決められていたり、動物の意味があったりするんですが、そこまで意識してしかも即興なんて私には神業としか思えません。当然私はそこまで意識して演奏する次元には到達していませんが、本来は演奏中に無我の境地に達して宇宙と融合するとか何とか言われています。そんな事出来るんでしょうか?
でも瞑想状態にはなります。姿勢がヨガだと思うので健康に良いかも。

話がまた逸れましたが、この規則をラーガと言います。この例のラーガは「Behag」ですが、ラーガによって使える音、主役や準主役が異なります。組み合わせを考えると無限に近いと思います。ラーガとは曲名ではなく、上記の様な規則を定義された「種類」です。「Rag Behag」を演奏する、と言えば、Bihagに定義された規則を守りつつ即興演奏する、とでもまずはご理解下さい。

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Act 2 : Ragを分類して整理しよう

ここではラーガについてもう少し突っ込んでみます。タイトルそのまんまです。
ラーガにはそれぞれ演奏する時間帯(もしくは季節)が決められています。厳密に言うと1日を12に分割して指定されていますが、実際にはそこまで細かくやる事もあまりありません。

Afternoon Rag 昼から夕方前に演奏される
Evening Rag 夕方から夜演奏される
Midnight Rag 深夜に演奏する
Morning Rag 早朝から朝にかけて演奏される
Raining Rag 雨季に演奏する
Spring Rag 春の訪れに演奏される

私が知らないだけで他にもあるかもしれません(情報求む)が、これぐらいの分類で良いでしょう。因みに12分割では「夜間第2節」等と表記されます。
カタい話が続きますが、頑張って読破して下さいね。

ラーガのフレーズは演奏すれば分かりますが、明るい印象だったり暗い感じだったり、哀しい感じ、妖しい感じ、Hな感じなどラーガによって感じるニュアンスは違います。当然演奏者の好みも出るでしょうし、聞き手にも好みか出るでしょう。

普通一日の始まりは朝なんでしょうが、インド古典音楽においては朝は終わりを意味します。コンサートはだいたい夕方から始まりオールナイトで続き、朝に終わる事が殆どですのでこういう定義なのか、朝が終わりだからコンサートも朝に終わるのかは知りませんが、1人の演奏家がずっとやる訳ではなくプログラムが組まれています。観客も全部見るハイパーな人はあまりいません。お目当ての演奏家だけを見る・最初の方を見て眠くなったら帰る・大物は最後に出るので早起きして来る・ずっといてるがバングの食べ過ぎや喫煙過多で動けないだけ寝てる、など色々なスタイルがあります。

ラーガは時間帯によってだいたいの印象があります。

Afternoon Rag 悲・乾・休・脱 等
Evening Rag 明・楽・喜・幸 等
Midnight Rag 深・妖・怪・瞑 等
Morning Rag 哀・妖・美・瞑 等

Raining RagやSpring Ragは、基本的にその季節感と感情を表現していると思います。余談ですが、私がRaining Ragを創ったら間違いなく不快・病・虫・酷暑になります(そんなものどうやって表現するんだ…不協和音か?)。

音楽にジャンルがあるように、ラーガにもジャンルの様な物があります。基本ラーガが10個あって、他のラーガは全てこの基本ラーガのどれかに所属します。というのも、この基本ラーガのどれかから発展させたからです。この10個のグループそのものをThaatと言います。日本ではタータと発音するのが一般的ですね。メーラとも言います。

基本ラーガはBilawal, Khamaj, Kafi, Asawari, Bhairav, Bhairavi, Kalyan, Marwa, Purvi, Todiです。

実は分類にも方法があり、ここで紹介したのはバートカンデー法と言うのですが、別にも現在のヒンドゥスターニ体系ではタータは72個に分類されます。しかし私が詳しく知らないのでここでは割合させて頂きます。

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Act 3 : Ragを表現する装飾方法や予備知識

音程を奏でるのに「Gamak」という装飾手法があります。ガマクと読みますが、音に対してゆらぎを付けます。音程を表すのには固定音階のみならず、うねりのある音階表現によって表現の幅が広がります。そのGamakより細かい表現を「Murkee(ムルキー)」と言い、Dhun等でよく利用します。

ガマクに関しては実際に耳で聞いて頂く方が分り易いでしょう。という訳で下記のファイルをクリックして聞いてみて下さい。シタールで演奏しています。

Gamak.mp3

タータは10個ですがエキストラタータと言われるラーガが3つあります。Kanada(Kandra), Malhar, Sarangです。これらエキストラタータはそれらに定義された特徴を各ラーガに与えます。
例えばRag Darbariに対してKanadaを付けると「Rag Darbari Kanada」になります。Kanadaに定義された特徴は「Sa Re Ga Ma Re Sa」ですが、Rag Darbari KanadaはRag Darbariの音階定義にこの定義を融合させ特徴付けています。「Rag Kounsi Kanada」とか「Rag Megh Malhar」等とラーガ名の後にエキストラタータ名が付きます。
これら3つのタータは単独ではラーガとして機能しません。必ず何かのラーガに付属するオプション的役目を果たします。

同じような装飾的存在にMishraRagmalaがあります。これらは知識、技術的にかなり高度なレベルでないと演奏は難解ですが、やはりラーガを装飾します。
Mishraは「Rag Mishra Khamaj」というようにラーガ名の前に付きます。で、この場合だと「Rag Khamaj」をベースにして、別のラーガの音階の一部、そしてその感覚を融合させています。「Ragmala」も基本的にはそうなんですが、融合度合いがもっと軽く、アクセサリー的に、つまり香りだけ?う〜ん、妥当な言葉が見つかりませんが、まあそういう事です(どういう事だ?)

ラーガにはそれぞれ使用する音階が決まっている事は前述した通りですが、上昇時/下降時の音階はラーガによって(前述した例でもそうであったように)ちょっと順番がややこしかったりします。実際に演奏する時にはこうした細かいスヴァラ(音階定義)を無視する事が時々あります。ですのでコンサートを聞いていて「ここは違う」という細かい突っ込みは止めましょう(^^;)。但し定義されていない音程を使ったりはしませんので。

Ragの事をRaginiと表す事がありますが、ラギニとラーガは別に変わりないんです。
日本語ではこの概念は無いんですが、名詞には性別の意味がありラーガが男性形ならラギニは女性形を表します。別に男性/女性の言葉遣い等ではありませんので。

一般には語尾が「a」で終わると男性形、「i」で終わると女性形です。ですので基本ラーガの「Todi」や「Bhairavi」などはラギニなんですね。まれに「Ragini Yamani」等と表記されているケースがありますので予備知識として頭の片隅に入れておきましょう。
こういった考え方を解説していくとインド文化の話から始める必要があるので、当然面倒なので省きます(逝け)。まぁインドの音階に色々な意味がある様に、ラーガ(ラギニ)にも色々な意味があるんですね。

うまく説明出来ているか不安ですが、これで旋律についての解説を終わらせて頂きます。